エコーと整形外科

こんにちは。院長の守重です。

当院の特徴の一つである、超音波診断装置(エコー)について今回は書かせていただきます。

エコーを使った診療と言えば産婦人科で妊娠中に胎児の観察をするシーンを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?私も印刷された、小さなわが子のエコー写真を眺めたことを思いだします。また、消化器内科の腹部エコーや循環器科の心臓エコーなどは現在ではあって当たり前のものと考えられています。

整形外科ではどうでしょうか?

整形外科を受診したことのある方なら、整形外科の診察室でエコーを見かけることは決して当たり前とは言えないことをご存知と思います。

ましてや、当院のように全ての診察室とリハビリテーション室にエコーを備えている整形外科は極まれと言っていいでしょう。

実は整形外科でエコーが普及してきたのはここ最近のことなのです。機器の進歩により診断に使うに堪えるようになったこと、そして開拓者たる医師たちが登場したことにより急激に普及しました。そして若く、エコーを使い始めて数年しかたっていないような医師や理学療法士がどんどん新しい発見をし続け整形外科エコーは爆発的に進化しています。
私自身もエコーを使い始めたのは2014年であり、たったの7年のキャリアしかありません。

しかし、7年使ってみてエコーを使わない整形外科診療はもはやあり得ないと感じています。極論すると、エコーなしの整形外科診療は詐欺に近いとまで言える時代に入りつつあると思っています。

昔ながらのエコーの無い整形外科にかかったことのある方は、整形外科と言えば、

レントゲン⇒「骨に異常が無いので大丈夫です。湿布で様子を見ましょう。」

というパターンの繰り返しであると認識しているかもしれません。

運動器診療のスペシャリストであるはずの整形外科が、レントゲンで骨折などの異常があるか無いかを見るだけの仕事に成り下がっているのです。患者さんの受診の目的はレントゲンに異常があるか無いかを確認するためではないはずです。

このパターンに慣れているご高齢の患者さんにはレントゲンの結果で「骨に異常がないのであれば安心です。」と自分からおっしゃる方もいらっしゃいます。レントゲン見るだけ診療に適応させられてしまっているんですね。

しかし、人間の体は骨だけでできているのではありません。整形外科を受診される方の殆どはむしろ骨以外の部分に問題があるのです。しかし、その問題を無視しているのがレントゲンオンリースタイルの整形外科です。

運動器のスペシャリストである真の整形外科医は、レントゲンだけでは問題を見極められないことがわかっているので、問診と徒手検査を重視します。どのようにして痛くなったのか、今現在どうするとどのように痛いのかを聞く、押して痛い場所を探す、動きによる痛みを探す(どのように動かすとどこがどのように痛いか)、特定の疾患を見つけ出すための整形外科特有のテストを使う、などなど手を尽くして症状の原因を特定します。しかし、これで得られることは症状の原因を推測するところまでなのです。

「多分○○という病気です。多分○○が損傷しています。」

という「多分~」によって診療が進んでいくのです。

その「多分~」診療時代を変えたのがMRIです。MRIは磁力を使って骨以外の筋肉や靭帯などの断面図を得る画像診断装置です。


MRI(Magnetic Resonance Imaging)
~磁気共鳴画像診断装置~

MRIであれば脊髄や腱、靭帯、筋肉の状態をちゃんと視覚化することができます。1980年代に実用化され、私が医師となった2000年頃にはまだよほどのことが無ければ使えませんでした。しかし、近年では普及が進み画像診断専門クリニックの多店舗展開などもあって、かなり撮影のハードルは下がっています。とは言え、時間もかかりますしコストも3割負担で1万円近いので決してお手軽とは言えません。

レントゲンでは軟部組織(靭帯、腱、筋肉、神経など)は捉えられず、MRIは手間とコストがかかる。レントゲンとMRIで足りなかった部分を埋められるものがエコーと言えるでしょう。

先ほど述べたように、エコーが整形外科界に広がってきたのはここ十年ぐらいのことです。エコーが埋めてきたレントゲンとMRIの隙間についてお話ししたいと思います。

1、軟部組織(骨以外の柔らかい部分)が見える

さきほどから繰り返していますが、レントゲンでは骨しか見えません。骨が大丈夫であるか、骨の形態変化から軟部組織の推察をするかしかありません。

例えば、変形性膝関節症だとかなり変形が進んでいて軟骨のスペースが無くなっていればレントゲンでも言えることはあるのですが、レントゲンを見てもあまり変形が進んでいないことがあります。この場合でも、MRIでは半月板というクッションが痛んでいることを捉えることができます。エコーでも半月板がゆるんで膝関節外に飛び出している様子を観察できます。


右の膝は軟骨が明らかに減っていることが、レントゲンでもわかる。
左の膝は多少変形があるものの、まだ軟骨は大丈夫そうに見える。

上のレントゲンの膝のMRI所見。右の正常の膝に比べて関節の間に挟まっているはずの半月板が飛び出している。

MRIで観察された半月板の飛び出しがエコーでも観察されている

2、診察室で手軽に何度でも見える

レントゲンはレントゲン撮影室で撮影します。足りない画像があったり、上手く撮れていなかったりするとまたレントゲン室に移動しなければなりません。
MRIに至っては当院のようにMRIを置いていないクリニックでは(ほとんどのクリニックがそうです)外部の医療機関を受診する必要があります。

エコーであれば、診察室でその場で怪しいと思った部分を即座に観察することが可能です。
MRIを毎週撮影することは現実的ではありませんが、エコーならば肉離れの治り具合など毎週観察することも可能です。コストも3割負担で月に1000円ほどしかかかりません。

3、被曝が無い

実際には以前当院の放射線技師がブログに書いたようにレントゲンの放射線被曝はほとんど問題ないのですが、ゼロとは言えません。
MRIも磁気を使っているために放射線被ばくはないのですが、磁気の人体に対する影響は未知の部分もあります。特に最近登場してきた高出力のMRIでは人体への影響は無視できないということになっています。

一方、超音波についてはむしろ治療にも使われているくらいなので人体に対する悪影響は無いと言っていいでしょう。

以上がレントゲンとMRIの足りない部分をエコーが埋めていると言える部分です。

そしてさらには、レントゲンやMRIでは全く考えられなかった部分にもエコーは手を伸ばすことができるのです。

1、動的に状態を評価できる。

動かしながら見るということはレントゲンもMRIも通常は出来ません(特殊な装置を使ってできることもあります)。しかしエコーではこれも診察室で容易に可能です。例えば、アキレス腱断裂の治療において、切れているところが足首を動かすことで寄ってくっつきそうかはエコーでなければわかりません。

また、治ってきたときにつながってきているかも動かしながら判断できるのはエコーだけです。

筋肉の動きやすさなどもエコーでしか評価はできません。
筋肉の動きが見えることが、理学療法士がエコーを使い始めた理由です。

2、治療に使用できる。

これがエコー診療の最大のメリットかもしれません。エコーを使用して注射や穿刺をするようになると、今まで画像を見ずにそれらの手技を行ってきたことがいい加減で危険だったかを痛感することになります。

例えば関節腔内注射というのは、関節をとりかこむ関節包という袋の中に薬を入れる必要があるのですが、膝ではエコーなしでは78%しか入らずエコーありだと96%入っていたという報告があります。エコーなしだと4回に1回くらいは外しているという確率です。

なんだか、注射しても効果が無いという場合は薬がダメなのではなくて狙ったところに入っていないからかもしれません。

神経ブロックでは、エコーなしでは神経がありそうなところに麻酔薬を入れていたのですが、どうしても効かせるために麻酔薬が多くなりがちですし、血管に入ってしまうリスクもあります。そうなると、重大な合併症のリスクは高まります。
一方で、エコーがあれば狙った神経の近くに針先があることが見えるので、少量の麻酔薬を入れるだけで効果が期待できますし、神経近くの血管に薬が入っていないことも確認可能です。当院で行っているブロック下のマニピュレーションもエコーなしでは実現できない手技です。

今回は整形外科とエコーについて書きました。整形外科にとってエコーはもはや必須であるということがお分かりいただけたと思います。

産婦人科で胎児のエコーが無いなんて信じられないように、循環器科で心臓のエコーを見ないなんてことが信じられないように、整形外科でもエコーが無いと信じられないという時代になりつつあります。

次回は、エコー診療の具体的な話について書いていきたいと思います。