脳と運動 〜運動神経〜

理学療法士の杉山です。

前回、脳が運動の指令を作っているメカニズムについてお話しました。
今回は、よく耳にし、日常で使われている「運動神経」についてお話ししようかと思います。

もくじ

  • 運動神経とは
  • 運動神経を高めるには
  • 大人になってから

運動神経とは

運動神経とは、脊髄から筋肉まで伝わる神経の種類の一つで、筋肉を動かす役割を担っている末梢神経のことです。

運動神経が良い、悪いという言葉をよく耳にしますが、その意味とは少し異なります。一般的に使われている運動神経が良いという意味は、筋肉を動かす運動神経だけでなく、外・内界刺激を感知する感覚神経の機能や、それら感覚を統合する中枢神経の役割が大切になります。以降、紛らわしいので一般的な運動神経の事は運動能力と呼びます。

例えば、バスケットボールを投げてゴールに入れる時、ボールを正確にゴールに向かって投げるよう身体を働かす運動神経の機能だけでなく、例えばボールの重さや自分の今の身体情報を知るための感覚神経、それらたくさんの感覚情報を計算する脳の機能が必要となります。ボールがよくゴールに入る人は、これら機能が高い運動能力のある人と言えるでしょう。

運動能力を高めるには

生まれながらに私たちの身体には運動神経を含むいろんな神経機能が備わっていて、成長と共に発達していきます。つまり神経細胞の数が増え、細胞同士の連絡が密になることで、その機能が高まります。

人間には成長の過程で神経発達が盛んな時期があり、それを“ゴールデンエイジ”と言います。その前にはプレゴールデエイジ、後にはポストゴールデンエイジがあり、この時期に多くの動きを経験することで、運動能力が高まります。

下のグラフはスキャモンの発育曲線(一部改変)で、横軸が年齢・縦軸が誕生から成熟までの発育量で20歳を100とした時の変化率が示されています。

このグラフは一つの説なので正確なエビデンスがあるわけではなく、細かな年齢の定義もありません。従ってこのグラフの解釈は様々ありますが、おおよそ神経系は6歳までに大きく成長し、12歳くらいにはほぼ100%に達します。筋骨格を含む一般型は身長・体重・臓器の事で、2-13歳ころまで緩やかに成長し、14歳ころから急激に発育し、18歳くらいでほぼ100%近くなります。

プレゴールデンエイジ

3-8歳まで、神経発達が著しい時期。運動制御は困難ですが、いろいろな経験が運動能力の基礎になります。

ゴールデンエイジ

9-11歳、神経系9割が完成する時期。いろいろな事を短期間で習得できる時期です。思うままに身体も動かせる時期ですが、筋肉などは未発達のためコントロール系の技術を伸ばすと良いでしょう。

ポストゴールデンエイジ

12-14歳、筋肉や骨格が著しく発達する時期。これまでと身体バランスが異なってくるため、習得した技術を実戦の中で発揮できるようにしていくと良いでしょう。

大人になってから

神経系の発達は子供の頃に完成しますが、神経には可塑性という機能があります。これは前の記事でも述べましたが、繰り返し運動を練習する事で神経回路のつなぎ方が変わって、新しい運動を習得や、技術向上が望めるという機能です。

しかし子供の頃と違って神経系や骨格筋の発達変化率は低いので、運動能力向上には時間がかかります。そこで、より効率的に運動能力を高めるのに必要な要素をお伝えします。

まずはイメージ!加齢とともに、実際の身体の状態と脳内での身体イメージが異なってくる事が多いです。何もないところでつまずいたり、久々に運動したら身体が動かない、なんて経験がある人もいるかもしれません。その状態から運動能力を高めるにはかなりの練習時間が必要です。そこでまず、運動そのものや身体のイメージをしっかり作ることが学習効率を高めることに繋がります。具体的には、歩く時に足元を見ないで歩くとか、トレーニング中に足元を見るのではなく、鏡を見ながら身体がどう動いているのかフィードバックを入れる事がおすすめです。

2つ目は、コーディネーション。様々な感覚を統合して行う運動が、運動神経を鍛えることに繋がります。例えば、視覚トレーニングを入れながら、身体トレーニングをすることで、より感覚の結びつきが強くなり、運動コントロールが上達します。お手玉なんかは、視覚と身体感覚の統合としておすすめです。

3つ目は、ゴールデンエイジでも同じですが、反復練習。正しい良い動きを反復練習することで、神経と骨格筋の繋がりが強くなり、動きの再現性が高くなり、コントロール能力が向上してゆきます。

注意として、大人になってからの運動では、若い頃のイメージのまま急に運動したり、負荷が強い事をすると身体がついてゆかず、怪我をしたり、痛みが出ることがあります。久々に運動を行うとか、初めてやる事に関しては、ゆっくり負荷量をあげてゆき、身体に無理なく楽しく運動を行ってもらえると良いかと思います。


北京オリンピックに出場している選手を見ていて、彼らは小さい頃から競技の練習を行っていて、それを十何年以上も練習して、それで世界レベルで戦っています。小さな頃からやっている事も、それを継続して練習している事も、その能力の高さも、その全てにおいて感服します。それによって、小さい頃に運動能力を高める事が、いかに大切かを再認識しました。

そんな凄さとは比べ物になりませんが、今年の冬、生まれて初めてスノーボードデビューをしました。靴の履き方すら知らなかった私は、何回も尻餅をつきながら練習して、1日で初級コースを転ばずに滑れるようになりました。人間はいくつになっても練習すれば、ある程度の事はできるようになるのだなと、感動しました。

そんな経験と知見から、これからもいろんな事に挑戦していけたらと思います。

引用
藤井 勝紀 発育発達とScammonの発育曲線、スポーツ健康科学研究 第35巻 2013年