五十肩って放っておいても治るの?~整形外科専門医が教える本当の五十肩の治療~

こんにちは。ぜんしん整形外科院長の守重です。
この度、当院のスタッフが交代で医療情報や身近なことを発信するブログを始めることになりました。
第一回は「五十肩」についてです。

「五十肩」について

私は勤務医時代から肩のスペシャリストを目指してトレーニングを積んできたので、開業した後も病院勤務時代に紹介をしてくれていた先生方を中心に肩関節でお困りの患者さんをたくさん紹介して頂いています。開院3年目ともなり、良くなった患者さんたちも同じ肩の痛みで困っている方をたくさん紹介してくれるので、毎日ひっきりなしに肩でお困りの患者さんを診察させて頂いています。

その患者さんの殆どがいわゆる五十肩と言える症状の方たちです。

「五十肩だから自然に治る」と友人に言われて様子を見ていたり、他の整形外科でシップの処方だけで放っておかれて毎日夜中の痛みに苦しんだりする方もいます。どちらにせよ結局に我慢できずに当院にいらっしゃるのです。

「五十肩は放っておいても治るの?」に対する答えは、「治らない人も多い」です。過去の研究では約半数程度は2年経っても症状が残ったとされています。

さらに問題なのは、放っておいて治るなら今の困っている症状はどうするの?我慢しておいてということなの?という点です。放っておいて数日で治るなら我慢しておくのは良いかもしれません。しかし、実際には自然に治るには数か月から2年ほどかかります。

治るにしても、今の症状を緩和する、治るまでの期間を短くするということが大変大事になってくるのです。

五十肩の原因

五十肩が起こる明確な理由については現在の医学でもわかっていません。しかしその病態の中心が肩関節の一番奥、肩甲骨と上腕骨をつなぐ関節包の炎症であるということはわかっています。この炎症が強い時期に、動かしたときに強い痛みが出たり、夜中痛くて眠れなかったりする症状が出るのです。この時には、湿布薬やマッサージでは焼け石に水です。

五十肩の治療

炎症をコントロールするためには内服薬や、ステロイドの関節腔内(先ほどの関節包の中です)が必要となります。痛みによる肩関節周囲の筋肉の過剰な緊張や姿勢の悪化による痛みもありますので、そちらは理学療法士によるリハビリテーションで改善していくことになります。

強い炎症については、内服薬や注射で数日から2週間くらいでコントロールができる方が多いです。何週間も夜間痛で苦しまれた方の殆どが一気に痛みが緩和するので大変びっくりされます。

ただ、痛みと同時に起こる五十肩の特徴的な症状である、肩の可動域制限についてはどんどん良くなる方とあまり改善してこない方に分かれてしまいます。万歳ができないとか、背中に手が回らない、自動車で運転席から後部座席に手を伸ばせないなどが可動域制限の症状です。

五十肩の可動域制限の原因は先ほどの関節包にあります。炎症の結果として関節包が固く縮んでしまうのです。関節包が縮むと全方向に強い制限が起こります。可動域制限が炎症のコントロールやリハビリで改善してこない方については、ここから先は別の治療を行う必要が出てきます。

関節包による肩の可動域制限に対して最近注目されているのが、神経ブロックによるマニピュレーション(授動術)です。

マニピュレーションとエコー

マニピュレーションという治療法自体は、昔からありました。五十肩の可動域制限ではある程度肩を動かしたところでガチっと動きが止まる感覚になるポイントがあります。そこが縮んだ関節包が限界まで延ばされたポイントです。実はそこから多少の力を加えるだけで関節包は伸びたり破れたりして肩の動きは改善されるのです。それを全方向に対して行うのがマニピュレーションです。

以前にはマニピュレーションは全身麻酔や局所麻酔で行われてきました。しかし、全身麻酔だと入院が必要ですし、局所麻酔では痛みのコントロールが難しくかなりの痛みを伴う処置になってしまいます。そこで、神経ブロックが登場するのです。

超音波(エコー)の技術の進歩によって、首から肩に伸びていく神経根という神経だけを狙って麻酔をかけられるようになりました。これにより手術ができるくらいの麻酔を日帰りでかけられるようになったのです。

神経ブロックをして15分ほどすると麻酔なしでは痛くて不可能であった、関節包を破っていく処置が可能となります。この時、ビリっとかミシっとか言う音がしますがこれが関節包の破れている音です。処置中は多少の周囲の筋のつっぱりはありますがどんどん肩の動きが良くなっていきます。麻酔をかけてから処置が終了するまでは2~30分程度です。

その後処置による炎症を抑えるためにアイシングをしてから、帰宅して頂きます。

麻酔をかけて数時間は腕に全然力が入らず垂れ下がってしまうので簡単な装具で吊って帰ります。麻酔が切れれば、腕は結構使えてしまいます。

マニピュレーション後はリハビリテーション通院が必要となります。関節包による固さは改善されるのですが、関節包が固くなっている間に周囲の筋肉が固くなったり縮んだりしているのをもとに戻す必要があるからです。

筋の縮み方には短縮と攣縮(れんしゅく)というものがあります。短縮とは文字通り筋肉が短くなっているもので、少しずつストレッチで伸ばしてく必要があります。攣縮というのは、痙攣(けいれん)して縮むという字の通りで攣ったように縮んでいる状態です。これは肩のバランスを整えたり、筋肉の緊張をとる薬を使ったりしてコントロールしていきます。

マニピュレーション後の経過としては1週間くらいで殆ど問題なくなる人もいますが、筋の問題が改善しきらず3か月以上症状が取り切れない人もいます。ただし、ほぼ全ての方がマニピュレーション前より可動域の改善が見られます。

ある程度の改善が得られた状態で、残っている症状に対してリハビリテーションや投薬、注射を行いあまり気にならない状態を目指すのがその後の治療となるのです。

マニピュレーションは劇的な効果をもたらす治療なのですが、その後も満足いく結果につなげられるように細かい対応が必要です。

実はエコーを用いた関節腔内注射も神経ブロックによるマニピュレーションも肩の診療に慣れた理学療法士も揃っている整形外科は全国的にもかなり少数派であるといえます。

これらの治療がもっと普及してどこでも受けられるようになると良いのですが、医師や理学療法士がエコーを使いこなせるようになるには実は結構トレーニングが必要です。これがどこの整形外科もエコーで診療を行っているわけではない理由なんです。

整形外科とエコーについてはまた後日書いてみたいと思います。