「その手術本当に必要ですか!? ~整形外科の手術適応~
院長の守重です。今回は手術の適応ということについて話をしたいと思います。
手術適応という言葉自体、一般の方にはなじみが薄いと思います。
適応という言葉の意味を調べると、
- その場の状態・条件などによくあてはまること。「事態に―した処置」「能力に―した教育」
- 生物が環境に応じて形態や生理的な性質、習性などを長年月の間に適するように変化させる現象。
- 人間が、外部の環境に適するように行動や意識を変えていくこと。「―障害」「過剰―」
のように書いてあります(小学館 デジタル大辞泉 より)。
2,3の意味で使うことが多いような気がしますが、今回は1の意味です。
しかし、1の意味でも少ししっくりこない方が多いかもしれません。
私は手術適応とは「手術を行うことが妥当である」という意味と考えています。
手術適応には「絶対的手術適応」と「相対的手術適応」があります。
絶対的手術適応は手術をしなければ命を失う場合や、障害が残る場合の事を言います。
相対的手術適応は、状況に応じて手術をするかしないかが変わってくる場合です。やるもやらないもありということです。
整形外科における「絶対的手術適応」は、
- 骨折で骨のずれが大きく、手術をして良い形にもどしてプレートなどで固定しなければ動作の制限などの障害が確実に残る場合
- ヘルニアや腫瘍による脊髄神経の圧迫が強く、すぐに圧迫を除かなければ手足の麻痺が残る場合
- 膝の半月板損傷で断裂した半月板が引っ掛かって膝が動かせなくなる(ロッキング)場合。
などが挙げられます。
「相対的手術適応」では、
- 骨折で、手術をしなくても最終的には治癒するが早く動かして社会復帰したい場合。
- 椎間板ヘルニアで、時間をかければ痛みが取れる可能性が高いが、早く症状を改善したい場合。
- 変形性関節症に対して、痛みが許容できなくなってきたので人工関節を行う場合。
などが挙げられます。
相対的手術適応には、絶対的手術適応に近い手術が望ましいものから殆ど手術の必要性が無いものまで幅広く存在します。
従って相対的手術適応の場合には、手術で得られるメリットとリスクをしっかりと天秤にかけて手術を行うかどうかを決める必要があります。
現在のルールでは手術を行うかの最終決定権は患者側にあります。従って患者さんは与えられた情報をもとに判断しなければなりません。最近では、一般向けの書籍も充実していますし、ネット上にも情報が出ているのでそれらを参考にする患者さんも増えてきました。
しかし、基本的には手術の必要性についての情報は手術を行う医師からもらうことになります。従って、医師によって患者さんに与えられる情報が変わってくることが問題となります。
医師が手術をしたい場合にはメリットが誇張され、したくない場合にはデメリットが誇張されがちになるのです。
大抵の場合は手術の決定については医師がどう考えているかが大きく影響します。
「今やらないと手遅れになりますよ。」
「手術しないと歩けなくなりますよ。」
なんて説明(おどし?)を受けると、手術をしようという気持ちになるしかないでしょう。
なので、手術の妥当性に関わらず手術をしたい医師は手術をどんどんすることができます。
手術の可否についてのチェック機構はほとんど存在しません。教育的な大病院では若手の手術適応の判断については指導医たちがコントロールをしますが、独り立ちするとあまり突っ込まれなくなってきます。
手術が増えると儲けが出るのでおかしな手術適応であっても医師が手術をバンバンやってくれればかまわないという経営者も存在します。
よくある手術件数ランキング本を見ると手術件数が多いことが良いことだと思ってしまいがちですが、ちゃんと適正な手術適応で行っているのか手術適応でもない患者さんを(だまして!)手術件数を増やしている病院なのかは見極めねばなりません。
ひどい例を挙げます。膝の痛みで当院に通院していた患者さんの話です。
この方の旦那さんが他院で人工膝関節の手術を受けました。手術をした医師に当院通院中の奥さんも膝が痛いと話をしたら、その場で奥さんの人工膝関節の手術予定が組まれたというのです。なんの診察も受けていない奥さんの手術が決まってしまったのです。せっかく旦那さんと先生が決めてくれたからと本人は手術を受けることにしました。
私の見立てではまだ軟骨も残っていて手術は早いかなと思っていた方です。相対適応として痛みが我慢できなければ手術もありだとは思いますが、診察なしで決定されたということに愕然としました。
ほとんどの施設、医師はちゃんと患者さんのために適応を吟味して手術を行っているはずですが、一部に患者さんの人生よりも手術をすることが大事という医師も存在するようです。
そのような医師に不必要な手術をされないように注意をしなければなりません。
一つ投げかける価値のある質問としては、
「自分が同じ立場だったら手術を受けますか?」とか「ご家族が同じ状況だったら手術を勧めますか?」
などがあります。
普通は「自分だったら手術を受けないね。」とは答えないでしょうが、リアクションに詰まるようなら怪しいと思った方がいいかもしれません。
それと、起こり得るリスクをちゃんと説明してくれているかも大事です。手術は体にダメージがありますので、必ずリスクがあります。確率は低くても起こり得ることを説明されているか確認してください。(過度に不安にならないことも大事ですが)
逆に、手術をすればよくなるのに、担当医が良くなる手術法を知らないなどの理由で手術を勧められないこともあります。整形外科に限った話ではないのでしょうが、手術の技術は日進月歩であり一昔前には手術では治せなかった症状が取れたり、仕方ないと考えられていた後遺症が防げたりもします。
例えば私がよく執刀する肩関節腱板断裂は、そもそも診断もあまりされず五十肩と言われ治らず我慢している患者さんが多かった疾患です。近年はMRIやエコーにより診断されるようになり、手術技術も確立されこの2~30年で治る方が多くなりました。
しかしながら、いまだに長年五十肩と言われ放置された後に当院を受診される方がいらっしゃいます。(※ 五十肩については過去のブログ記事もご参照ください→ 五十肩って放っておいても治るの?~整形外科専門医が教える本当の五十肩の治療~)
このように良い方法としての手術のことを、担当する医師もわかってないこともざらにあるのです。
症状が改善し将来の不安を残さないために、患者さんが望む形のゴールに到達するために、手術をすべきかどうかをちゃんと判断する。このことを忘れずに診療に向き合っている医師に出会うことがまず大事なことなのかもしれません。
手術の必要性や手術で治るかを知りたいという方は、当院でも相談に乗りますので受診してみてください。