整形外科クリニックでの放射線被ばくの安全性について

日差しが日増しに強くなり夏の訪れを感じる季節となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。本来でしたら、海に山に競技場に海外にと行きたいところですが、何分このご時世、本当にままなりません。

さて、古来より世界各国で神と崇められ信仰の対象となることも多かった太陽は、我々が生きていくのに不可欠な可視光線(いわゆる光)以外にも様々な電磁波を放出しています。

日焼けの原因として知られる短波長の紫外線は、抗ウイルス作用や殺菌作用があります。紫外線はその波長の長さゆえに透過性は無いのですが、皮膚表面に一定の作用を与えます。

メリットとしては、ビタミンDの産生を促し、骨を丈夫にする点が挙げられますが、 大量に浴びるとシミや、熱傷、白内障、黒色種、皮膚癌などの疾患を誘発するデメリットもあります。個人差や人種による違いもありますが、ビタミンDの生成には1日数10分程度の日光浴で十分なので、必要以上に紫外線を浴びるのはおすすめできません。

今回は、そんな紫外線と同じ電磁波の放射線について私見を述べさせていただきます。

電磁波の種類

自然放射線とレントゲンの被ばく量

放射線の一種であるX線は波長が短いため紫外線よりも透過性があり、通った道筋にエネルギーを与える「電離作用」があるので、半導体に電流を流したり銀塩写真を感光させたり生体の遺伝子に一定の確率でキズをつけたりします。紫外線が遺伝子に傷をつけて皮膚癌を誘発するのと同じです。要は質と量なのです。

地球が生まれて50億年経ちますが、自然界に存在し原発燃料にもなるウランの半減期も50億年で、大昔は生物が浴びる放射線の量は今のおよそ2倍でした。それでも人類の祖先は生き延び、50億人以上に増えた現在も宇宙や地中そして食品などから微量の放射線を受けております。

このような自然界にもともと存在している放射線を「自然放射線」といいます。日本では1年間で2.2~2.4ミリシーベルト(mSv)の自然放射線を受けると言われています。

自然放射線とは逆の「人工的な放射線」の代表が、私たち放射線作業従事者の扱うX線、いわゆるレントゲンです。健診でおなじみの胸部検診X線検査1回なら0.05ミリシーベルト被ばくします。

これが多いと感じる方もいるかもしれませんが、我々放射線作業従事者の年間線量限度は50ミリシーベルト、実にレントゲン100回分です。国がここまでの放射線なら健康に顕著な影響はないだろうと定めた値が「レントゲン100回分」と言ってもいいでしょう。

検診で必要なレントゲン数回であれば、ほとんどの人にとって健康に影響はないと断言できます。

放射線の半減期と放出時間

放射線の影響は半減期、または放出する時間を最も考慮すべきです。

メルトダウンした福島第1原発の核燃料には、セシウム・ストロンチウム・コバルト・プルトニウムなどが含まれ、レントゲンの10倍以上のエネルギーのアルファ線、2倍以上のベータ線、ガンマ線を何十年・何百年と放出し続けます

原発事故由来の放射性物質 半減期
セシウム137 30.17年
ストロンチウム90 28.79年
コバルト60 5.27年
プルトニウム239 2万4000年

一方、C T撮影は1回でおよそ20秒、X線撮影1回当たりは長くて1秒程度です。原発も診断用X線も、同じ「放射線」という点で違いありませんが、その内実はまったく異なっており、安全性には雲泥の差があります。これが世界中でX線撮影が最も頻繁に、そして安全に行われている理由でもあります。

レントゲンの安全性

以上のことより、1回の線量も低く照射時間も短いX線検査は、適切な知識と技術を持った技師の下で行われる限り、その安全性は十分に確保されていると言えるでしょう。

確かに放射線は体に対して良いものではありませんが、医療行為による放射線検査や放射線治療により受ける利益の方がはるかに大きいと言えます。

X線検査担当より