人に最低限必要なコアトレーニング(前編)
ぜんしん整形外科、柔道整復師の橋本です。
昨今の新型コロナウイルス感染症の感染が再び拡大する可能性がある状況で、毎日不安に感じられている方も少なくないと思われます。特に高齢者の方におかれましては感染予防を心掛けながら健康を維持していくことが大事です。
日ごろから、健康増進・生活の質向上のために運動習慣を持つ方や、スポーツパフォーマンスを向上のために体幹トレーニングなどを行っている方も多くいらっしゃると思います。
しかしそれにも関わらず、肩や膝、腰などを痛めてしまって、当院に通院されている方も多いと思われます。
そこで今回は、健康増進・症状改善・傷害予防の為に必要なコアトレーニングの話をしたいと思います。
コアトレーニングとは
英語の「コア」を直訳すると「(りんごなどの)芯」、「(物事の)核心」、「(物質の)中心核」となります。つまり、棒状の「芯」や、中心の「点」といえます。一般的にヒトに対して「コア」という言葉を用いるときは、背骨を「芯」で捉えたり、へそ下の身体重心を「点」で捉えたりします。
「コア」と言うときには、「芯」で捉えて背骨まわり(左)を、あるいは「点」で捉えて身体重心あたり(右)をイメージしていることが多いようです。
また、もっと具体的に、腹腔※を構成する深層筋群を「インナーユニット」と称して、狭義に「コア」と表現したり、体幹(あるいは背骨)につく背筋群を含めて広義に「コア」と表現することもあります。
※腹腔とは、お腹の臓器が入る空間のことで、横隔膜・腹筋・骨盤底筋などに囲まれています。
体幹トレーニングを紹介するwebサイトでは,「コア」=「体幹」と表現されることもしばしばみられます。もはや違和感をもたない人がいるほど言葉が独り歩きした感もありますが,少なくともイコールではないと僕は考えています。「コア」については上述の通りですが,同じく「体幹」も発言者の意図によって都合よく使用される曖昧な表現だと思います(トレーニングを行う上で,この曖昧さは必ずしも悪いわけではありませんが)。
僕の考えるコアトレーニングとは、特に体の中で不安定な腰椎と骨盤・股関節に関わる周囲の全ての筋群を鍛えるエクササイズだと考えています。
このトレーニングで大切なことは、ただ筋力を強くするのではなく、コアの「機能」を改善することです。
コアトレーニングの目的
コアトレーニングの最大の目的は、「身体運動の円滑化」や「力の伝達の効率化」、すなわち「身体の各パーツの相対的な調和を図ること」とも言えます。
分かり易く説明すると、四肢すなわち上肢・下肢の動きに対して、体幹がぶれないことです。
体幹が“ぶれない”だけで満足していては効率的な身体運動を行うことができませんが、「効率よく動かす」ためには、頭部を中心に体幹が軸ブレせずにしなやかに動くことが重要です。
例えば、手足を大きく動かす動作((野球のピッチング動作や、サッカーのボールを蹴る動作など)の中で、コアと言われる部分が動いて不安定になってしまうと、上半身や下半身の動作はより不安定に(=非効率)になってしまいます。つまり非効率な動作は傷害のリスクを高めてしまうということになります。
また、体幹が“ぶれず”に“動ける”ようになっても、呼吸をとめるようなトレーニングでは実際の運動に活きません。その理由は、腹部の筋は主要な呼吸筋でもあるので、呼吸と動作の協調を無視したトレーニングは有益とは言いにくいからです。
コアトレーニングをする事で、背骨(特に腰椎)に加わる、「圧迫力」、「捻転力」、「剪断力」に対して安定性をもたらしてくれます。
それだけでなく、コアを安定させることで、筋力、筋持久力、筋パワーの発揮に影響をあたえるので、スポーツパフォーマンスの向上にも繋がります。
コアの作用と分類
「コア」と呼ばれるところがどのように神経や筋肉をコントロールしているかというと、大きく三つに分類すること事ができます。
- ローカルスタビリティ(ローカルスタビライゼーションシステム)
- グローバルスタビリティ(グローバルスタビライゼーションシステム)
- グローバルモビリティ(ムーブメントシステム)
聞きなれない言葉になりますので、一つずつ説明していきます。
「ローカルスタビリティ」は体の深層にあるインナーマッスルの筋群が関節を安定させる役割を担うことです。
主な作用は、脊柱(背骨)に付着し、背骨の間の安定性を高めることです。先ほどお話しした、背骨に加わる「圧迫力」、「捻転力」、「剪断力」に対するストレスが起こらないように安定させる非常に細かな役割をしています。「ローカルスタビリティ」に関わる筋肉(腹横筋、内腹斜筋、多裂筋骨盤底筋群、横隔膜)の場所でいうと、みぞおち辺りから骨盤までのイメージです。
「グローバルスタビリティ」は体の表層にあるアウターマッスルの筋群が協調的に働き、関節を安定させる役割を担うことです。主な作用は、骨盤と脊柱を安定させる、上半身と下半身の間で負荷を伝達することです。実際、効率的な動作を行うには、体幹は安定している方が良いのですが、色んな動作の中で動かされてしまいます。その中で筋肉が収縮し、背骨の過剰な動きを制御するために働く役割があります。「グローバルスタビリティ」に関わる筋肉の[腰方形筋、大腰筋、外腹斜筋、腹直筋など]の場所でいうと、下側にある肋骨からお尻の外側と内腿あたりのイメージです。
スタビリティ(関節を安定させる)を図で表すとこのようになります。
繰り返しの説明になりますが、「ローカルスタビリティ」は体の深層に存在する「インナーマッスル」が、特に一つひとつの背骨の安定性を高めています。「グローバルスタビリティ」は体の表層に存在する複数の「アウターマッスル」が連携することによって関節を安定させるように働くこともあります。一般的に「アウターマッスル」は体を動かす筋肉と認識されていますが、スタビリティにも作用することもあるということを認識しておいてください。
「グローバルモビリティ」は体の表層にあるアウターマッスルの筋群で体を動かすという役割になります。ここで作用する筋群は脊柱および骨盤から四肢(手足)に繋がる筋群になります。主な作用としては、動作の中で、加速・減速に働くこと。また、動作中の安定性を作り出し、「コア」の働きを効率よくしてくれます。
コアトレーニングが必要な理由
ある研究によると、慢性的な腰痛をもつ人は、「ローカルスタビリティ」である、腹横筋・内腹斜筋・多裂筋の筋力が低下していたという結果があります。痛みによって起こったものなのか、筋力が低下して腰痛が起こったのか、はっきりとした因果関係は分かっていませんが、いずれにしても、腰を安定させる機能が低い状態であることは確実であると言えます。
同じく仙腸関節(骨盤にある関節)に痛みを訴えている人は、内腹斜筋・多裂筋・大殿筋(お尻の大きな筋肉)の筋力が低下していたという研究結果があったようです。
痛めている場所によって多少の違いはありますが、「コア」と呼ばれる筋群の筋力低下が認められているようです。
また筋力低下だけでなく、姿勢とバランスが崩れ、片脚支持が困難にもなります。
動作で例えるのであれば「歩く」という、日常生活に支障をきたすということになります。特に片脚支持という状態は、その姿勢自体を保つだけでも体はアンバランスな状態になりますので、「コア」の筋肉が活性化します。
ですが、活性化されないということは、それだけ不安定になりやすい=転倒しやすくなるということになってしまいます。場合によっては、体幹以外どこかに負荷が集中的に掛かるようになってしまうと、膝関節や足関節などの、「コア」とは異なる部位にも悪影響を及ぼします。
こういった事象は、日ごろから運動習慣がない方に限りません。
健康増進を目的とした筋力トレーニングをしている方や、競技パフォーマンス向上させる目的としたアスリートの方にも多くみられます。
効率の良い(機能的)動作というものには、「コア」の活動なくして成立しません。
体に症状を抱えている方も、症状はないけれども姿勢や動作の非効率さを感じている様でしたら、一度「コアトレーニング」を取り入れてみると良いかもしれません。
まとめ
今回は「コア」とは何か、「コアトレーニング」の目的や「コア」作用を中心についてお話してきました。
効率の良い動作(機能的動作)を一言でまとめる事は難しいですが、「意識しなくても良い姿勢や良い動作が出来る」ということは「コア」が活性化している状態であると言っても良いと思います。
次回は症状改善のための「基礎的なコアトレーニング」をお話したいと思います。
もし今回のブログを読んで興味が湧きましたらぜんしん整形外科隣のZ-fitnessまで是非お越しください。
最後までお読みいただきありがとうございました。