骨のミカタ 骨粗鬆症関連血液検査のミカタ ~とあるクリニックの整形外科医の骨の話 骨粗鬆症編(5)~

暑い上にじめじめした日もあり体調管理が難しい時期ですが、疲労をためないようにしっかり睡眠をとりましょうね。といいつつ、電子カルテのブルーライトを一日中浴びている副院長の丸田です。

昨年当クリニックとZ-fitnessが連携し、運動機能の向上・健康寿命の延伸という目的で、歩行教室”を開催させて頂きました。私からは“ミニレクチャー”として、歩行にとって大切なについての話と骨にとってやっかいな病気である骨粗鬆症についての話。そして当クリニック連携施設であるZ-fitnessの橋本トレーナーからは“講義 + 機能的に歩くために必要なストレッチなどのエクササイズ”のレクチャ―という構成です。

そしておかげさまで、その歩行教室の第2回となる“健活ウォーク教室”を6月17日に開催することができました。私からは前回の内容に加えて歩くことの大切さを“フレイル・加齢”のことも関連させて簡単に話をさせて頂きました。今後もこのような活動を続けて、骨の大事さ、骨粗鬆症のこわさ、そして運動の素晴らしさを広め骨粗鬆症とそれによる骨折で困る人が少しでも減るように活動を続けていきたいと思っています。

さて今回のブログのテーマですが、骨粗鬆症関連の血液検査の結果のミカタについてです。血液検査は骨粗鬆症の診断には使われないのですが、骨密度検査などで骨粗鬆症と診断がついた方の骨代謝状態などを評価し、その人にあった治療をしていくために行うとても重要な検査です。

そもそも血液検査とはどういうものかというと、注射針により静脈血を採取し、その検体(血液)中の様々な成分を測定する検査です。特に骨代謝にかかわるものは免疫反応(コロナ禍でこの言葉が広まったかもしれませんが、抗原と抗体の反応のことですね)を利用した測定方法で検査します。

以下、この血液検査で測定するもののなかから、主要な項目について説明させて頂きます。大きくは二つに分けられて、骨代謝にかかわるもの栄養にかかわるものです。

(各項目の基準値は当院で依頼している検査会社で定めているものを記載しています)

☆骨代謝マーカ

まず“骨代謝”について。骨は新陳代謝しています。骨は生まれてからずっと同じ骨ではなく、古い骨は破骨細胞によって吸収され(骨吸収)、そこに骨芽細胞が新しい骨を補完します(骨形成)。これをリモデリングといって、数年で骨は入れ替わり、このような一連の過程は骨代謝回転とも呼ばれます。

いいほね.jpより

骨を溶かす細胞の勢いと骨を作る細胞の勢いのバランスがとれていればいいですが、この絶妙なバランスが崩れることがあり、骨を壊す細胞の勢いが骨を作る細胞の働きより相対的に強い状態が続くと、骨がだんだん弱くなってしまいます。そして骨形成の勢いの指標となるもの、骨吸収の勢いの指標となるものが、それぞれ骨代謝マーカーの骨形成マーカー骨吸収マーカーです。当院で主に測定しているマーカーは以下の二つです。

Ⅰ型プロコラーゲン―N―プロペプチド(P1NP)骨形成マーカー。
(補足;単量体と三量体があり、当院では両方測定するtotal P1NPを測定しています)

基準値
男性 18.1~74.1μg/L
女性:(閉経前) 16.8~70.1μg/L
女性:(閉経後) 26.4~98.2μg/L

長い名前ですね。だけどよく見るとこの中に聞きなれたワードがあることにお気づきでしょうか。“コラーゲン”です。

実はコラーゲン、骨の基質の大事な主要成分の一つです。詳しく言うとⅠ型のコラーゲンで皮膚にもこのコラーゲンが含まれます。皮膚と同じだと、強度が弱いイメージがあるかもしれませんが、牛革なんて丈夫ですよね。P1NPは骨組織に大量に存在するⅠ型コラーゲンが成熟する時に血中へ出るものなので、P1NPの血中濃度は骨形成の程度を表します。

酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b(TRACP-5b)骨吸収マーカー。骨を溶かす細胞の勢い。

基準値
男性 170~590mU/dL
女性:(閉経前) 120~420 mU/dL

これもまた長い名前ですね。これは体内の酵素の一つで(酵素とは体内で起こる化学反応に必要な蛋白質)、破骨細胞の活性化に伴い血中に出てきます。

栄養にかかわるもの

骨の健康や骨粗鬆症の治療において栄養素はとても大事です。特にカルシウムビタミンなどです。それらの量も血液検査でわかるので、自分に何が足りていて何が足りないのかを数値として見ることができます。自分で検査結果を見返す習慣をつけて日々の食生活を変えていきましょう。

▶25-ヒドロキシビタミンD 25(OH)DビタミンDの充足度の評価に使用。

基準値
ビタミンD充足 30ng/mL 以上
ビタミンD不足 20 ng/mL以上~30ng/mL
ビタミンD欠乏 20ng/mL 未満

ビタミンDは食べ物から摂取するか、皮膚への紫外線の暴露により皮膚で作られます。

上記の取り込んだまたは、作られたビタミンDはまず肝臓で代謝されます。これが25(OH)Dです。さらに腎臓で25(OH)Dが1α,25(OH)₂Dになりこれがホルモンとして働きます。

低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC) ビタミンKの充足度

基準値
4.5ng/mL未満

オステオカルシンは、骨芽細胞が作る骨マトリックス(細胞間の接着や形態形成の安定化、物質の貯蔵など細胞間を調整する成分)です。このオステオカルシンにはビタミンK依存性の反応を受ける部分を持っていて(グルタミン酸残基と言います)、この部分がγ-カルボシキグルタミン酸になりカルシウムを沈着させる機能が発揮されます。ビタミンKが不足していると、この反応が十分起きずかわりに増えるのが低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)です。よって、ucOCの値が“高い”とビタミンKが“足りない”ということになります。ん~、わかりにくいですよね。

Ca カルシウム

基準範囲
8.6~10.1mg/dL

骨にとってカルシウムが大事というのは結構知られているかなと思います。しかしカルシウムの役割はそれだけではなくて、神経や心臓の動き、血液の凝固など体にヒトが生きていく上で必須で、その貯蔵庫としての役割を担っているのが骨という見方もあるようです。生体内にある無機物のうち最も多量に含まれるもので、そのうちほとんどは、リン酸カルシウムの形で骨に沈着しています。血清アルブミン値(下の記事参照)が低いと見かけ上血清カルシウム値が低くなることがあります。その時は補正式を使って測定値を補正します。

TP(血清総蛋白)とAlb(血清アルブミン)

基準値
総蛋白 8.6~10.1mg/dL
アルブミン 8.6~10.1mg/dL

血清中にある蛋白は100種類を超えて、これらの総量が総蛋白となります。健常者において総蛋白の60~70%がアルブミンで、栄養状態を示す指標の一つです。またカルシウムのところでも書きましたが、アルブミンが低値だと血清カルシウムの数値の補正が必要となります。

■最後に

今回のブログは以上です。お忙しい中記事を読んで頂きありがとうございました。

自分の血液検査を見直して自分の状態を確認し、そして生活習慣に反映して頂ければ幸いです。

参考文献・図書

骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの適正使用ガイド2018年版

骨代謝マーカーハンドブック メディカルレビュー社

骨粗鬆症治療薬の選択と使用法 骨折の連鎖を防ぐために 南江堂