その背すじが伸びたきれいな姿をいつまでも ~とあるクリニックの整形外科医の骨の話 骨粗鬆症編(1)~

背中や腰が曲がった姿と背すじがスッと伸びている姿。みなさまはどちらの未来を選びますか?

副院長の丸田です。骨粗鬆症を放置して進行してしまった結果、骨の変形が起き姿勢の変化がでてしまい背中や腰が曲がってしまうことがあります。ではどうすればいいでしょうか。骨粗鬆症の予防・治療戦略で最も大事なキーワードは「先手必勝」、これだけです。

自分の骨や姿の未来についてちょっとでも関心がある方は、下の記事を読んで頂ければ幸いです。忙しく読む時間はないという方は整形外科医など骨をみることができる医師がいて、さらにしっかりとした骨の検査できる病院・クリニックに受診、相談して頂くのがいいと思います(当院でも対応していますので気軽に御来院下さい)。

◆そもそも骨粗鬆症とは?

骨粗鬆症検診を受けて、骨密度が低い場合、整形外科を受診するように勧められます。しかし受診していただいた方々の中には「特になんともないんですけど、整形外科受診するように言われて、……」と戸惑いながら受診される方がいます。それでは骨粗鬆症とはいったいどんな疾患なのでしょうか?

骨粗鬆症とは年をとることや、女性の場合閉経を迎えること、そして栄養不足・運動不足等が原因となって骨がもろくなり骨折しやすくなる病気です。WHO(世界保健機関)では、「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。また2000年の米国立衛生研究所では「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」となっています。ちょっとわかりにくいですが「自分自身が『骨粗鬆症かも?』と症状で自覚するのが難しく、骨が構造上もろくなっていき、いつの間にか骨折しやすい状態になっている」という疾患です。ポイントは自分で気付くのが難しいということです。自覚症状がないまま微小な骨折を起こし、それが背骨で起こればだんだんと背中が丸くなっているということもあります。そのため骨折する前に骨粗鬆症を見つける必要があり、だからこそ区や市の検診でも骨密度測定が行われています。

それでは今どれぐらいの人が骨粗鬆症と考えられているのでしょうか。ある一時点において疾病を有している人の割合を有病率といいますが、以前報告された国内データがあります。一般住民での40歳以上の骨粗鬆症の有病率は第2~第4腰椎(背骨の腰の部分)で男性3.4%、女性19.2%、大腿骨頚部(太ももの骨の付け根)の場合は男性12.4%、女性26.5%で患者数は約1280万人となっています。また今年の3月にアメリカで報告された新しいデータがあって、2007-08年から2017-18年にかけての骨粗鬆症の年齢調整有病率は女性で14.0%から19.6%に上昇したという報告がありました。アメリカでの話ではありますが、10年前と比べて女性の骨粗鬆症は増えていることになります。

◆怖い骨折

次に、もし骨折したら何が困るのでしょうか? 多くの場合は痛いですし、変形が残るがこともあります。上でも述べたように背骨の骨折で骨の形が変わると身長が低くなったり背中や腰が丸まってしまうことが多いです。骨の変形による姿勢の変化なので、いくら自分で背すじを伸ばそうとしても伸ばせません。また骨折の程度によっては手術が必要だったり、寝たきりになることもあります。背骨の骨折(椎体骨折)や太ももの骨の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)の場合、その後の日常生活の動作に大きく影響してしまうことが多く、さらに骨折後、また別の個所が骨折してしまう骨折の連鎖も起きることがあります。

大腿骨近位部骨折はその後の予後にも関わり、さらに反対側(右を骨折していたら左も)が骨折してしまうとさらに予後が悪くなるという報告があります。椎体骨折も予後に影響し、他の椎体が折れて、複数骨折になるとこちらもさらに予後が悪くなります。2020年に発表されたGirgis CMらの論文では全世界の大腿骨近位部骨折の1年以内での死亡率は20%で、全世界の大腿骨近位部骨折後関連の死亡者数は毎年74万人との報告がありました。国、地域で医療の差はありますが、この論文の冒頭はOsteoporosis(骨粗鬆症) kills.ではじまります。2007年にTsuboiらが報告した国内データによると大腿骨近位部骨折がある人の生存率は骨折後1年間で81%、5年間で49%、10年間で26%となり一般の人口生存率と比べて非常に低いことが示されました。また2013年にQuらは骨折していなくても低骨密度自体が全死亡・心血管障害死亡のリスクを上げることを報告しています。まとめると、Osteoporosis kills. ということなのです。

◆骨折の危険因子とは

骨折の怖さを知って頂いたのですが、骨折の危険因子の中で、当然骨密度が下がっていないかどうかというのが重要になります。低骨密度以外の危険因子としては女性、高齢、既存骨折(過去に骨折したことがあるかどうか)、喫煙、飲酒量、ステロイド薬使用、骨折家族歴(親の骨折)、運動不足等があります。

自分の骨折リスクがどれぐらいか心配な方にはWHOが発表した、自分でも骨折危険度が評価できるFRAX(fracture risk assessment tool)というものがあります。いろいろなサイトで載っていて質問に答えていくだけなのでぜひお試し下さい。

https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.aspx?country=3&lang=jp

例えばこちらは イギリスのSheffield大学のサイトです。質問はすべて日本語で大丈夫です。項目【12.骨密度】は、わからなければ入力せずに「計算する」をクリックして下さい。

今後10年以内の骨粗鬆症による骨折の可能性と、今後10年以内の股関節骨折の可能性が表示されます。どちらか一方でも15%以上の方は要注意ですので検査をお勧めします。

以上、今回は骨粗鬆症の怖い面について書きましたが、先手先手で対応していけば怖くありません。次回は先手をとるための検査から治療までを説明します。

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