柔軟性の向上はストレッチだけで可能か(前編)
ぜんしん整形外科、柔道整復師の橋本です。普段はクリニック隣接のZ-fitnessでトレーナーとして勤務しています。
様々な年齢層の患者さんやクライアントさんからの要望に沿ってメニューを作成し、トレーニング指導をしています。
その中でも「身体を柔らかくしたい」という要望が多く寄せられてきます。
柔らかくしたいという理由は一人ひとり異なりますが、症状改善や傷害の予防、競技をしている方だとパフォーマンス向上を目的としています。
柔軟性とは
今回は「柔軟性」についてお話ししたいと思います。
体力の一要素であり、筋肉と腱が伸びる能力のこと。動きのしなやかさだけでなく、傷害の予防などにも関係する
柔軟性は筋肉と腱が伸びる能力のことで、筋力・瞬発力・持久力・調整力とともに基本的な運動能力のひとつとされています。
静的柔軟性と動的柔軟性という2つの面から捉えることができ、前者は「関節可動域」すなわち身体の柔らかさというところを表し、後者は「関節可動域における動きやすさ」すなわち運動のしなやかさを表します。
怪我の予防や疲労回復には静的柔軟性を高めること、競技能力には動的柔軟性を高めることが大切になります。(厚生労働省e-ヘルスネット参照)
つまり柔軟性は筋肉や腱の作用によるもので、関節可動域や動作に影響するものであると言えます。
では柔軟性を向上させる方法にどのようなものがあるでしょうか。
マッサージを受ける、鍼をうつ、肩甲骨をはがしてもらうなどのパッシブ(受動的)な方法。
姿勢を保持したまま筋肉をゆっくり伸ばす静的ストレッチや、関節を動かしながら筋肉を曲げ伸ばしする動的ストレッチなどのアクティブ(能動的)な方法があります。
柔軟性を向上させる方法や手段は多数あるので、シチュエーションや状況に応じて取り入れ、継続していくことが大切になります。
柔軟性に関わる筋肉の解剖
まず柔軟性に関わる筋肉の解剖を見ていきましょう。
柔軟性に関わってくる筋肉は「筋線維束」と呼ばれるものの集合体で構成されています。
そしてこの筋線維束はいくかの「筋線維」の束になっており、筋線維が筋線維束となり、さらに筋線維束が集まって筋肉が出来上がってきます。この筋線維束は「サルコメア」の集合体と言われています。これが筋肉の最小単位と言われており、太い筋フィラメントと細い筋フィラメントの組み合わせで構成されています。
筋線維と筋線維の間にもう一つの筋線維が挟まっていて、この間で滑走が起こる仕組みになっています。この一つの組み合わせをサルコメアといい、これがいくつも連なって一つの細い筋線維となり、筋線維束、筋肉という構成になっています。
筋肉の収縮を細かく見ると、筋フィラメントの滑走から起こっているものだという事です。
柔軟性が低下するきっかけ
この筋肉の収縮が少なくなる、すなわち柔軟性低下のきっかけが大きく二つあります。
一つ目が「加齢」に伴う運動量の減少です。これは筋肉量・筋力の低下を起こします。
20歳をピークに筋肉を構成するたんぱく質の減少が起こり、必要な分だけの筋線維を残すというような変化を起こしていきます。これを「サルコペニア」と言います。
活動量の減少に伴い神経の萎縮も進むため、神経指令の機会が少なくなることから高齢者の方は脳神経系疾患のリスクが高まります。
二つ目が「固定」による影響です。これも柔軟性を阻害する要因の一つになります。
例えば怪我などをした際に、シーネや装具で関節の可動域を制限したまま長時間過ごしていたとします。
関節の固定によって、筋肉は伸ばされた状態や縮んだ状態で過ごすことになり、筋肉の働きがなくなります。これにより筋の最小単位であるサルコメアに変化が起こってきます。元々、サルコメアには適切な長さが存在しているため、固定による影響からサルコメアの数を減らし、適切な長さを保とうとする変化が起こります。つまり、関節の可動域を制限された為に筋肉が固まったのではなく、筋肉の長さが短くなったということを意味します。これは柔軟性の低下の中でも大きな問題になります。
柔軟性を向上させるには○○が必要
それでは柔軟性低下を予防するために、筋肉に収縮をいれるストレッチだけでも有効なのでしょうか。
結論から言いますと、柔軟性を向上させるストレッチをした後に筋力トレーニングを取り入れる必要があります。
なぜ筋力トレーニングが必要なのかは、柔軟性が低下する原因に答えがあります。
柔軟性が低下する原因は以下のようなものがあげられます。
- 反復動作
- パターン化した過負荷
- 各スポーツの未熟な専門技術
- コアストレングスの欠如(インナーマッスルの筋力不足)
- 長時間の同一姿勢(身体の固定)……etc
こういったものが原因で柔軟性が欠如し、筋のアンバランスが起こります。言い換えると、特定の場所に負担が偏って障害を起こす、もしくは過緊張状態になるということです。
例えば、サッカーのキック動作の繰り返しにより、股関節前面の硬くなった、もしくは過緊張状態が起こったとします。
これに伴い反対側の股関節後面の力が入りづらくなってしまいます。これが大臀筋(お尻の筋肉)の機能低下につながってくると、足を地面に接地した際に膝が内側に曲がりやすくなります。結果、膝関節の傷害を招きやすくなってしまいます。
こういった特定の筋肉が過緊張状態のままでいると、他の筋肉や関節に影響を及ぼし、傷害のリスクが高まってきます。
また微細な傷害を蓄積していくことにより、大きな傷害を引き起こすきっかけにもなってしまいます。
例えば、ある組織の外傷が起こったとします。そしてその組織には炎症が起こります。
炎症をしっかり処置をせずにそのままにしておくと、周辺の筋肉や組織は筋痙攣およびに過緊張状態に陥ります。これにより周りの組織との癒着が起こり、筋肉の中に存在する神経組織に変化が出現します。結果、もともと備わっていた柔軟性や可動域が低下して、筋のアンバランスが起こります。
この筋のアンバランスが起こったまま動作を繰り返すことによって、初めとは異なる部位に負担が偏ってきます。これが次なる傷害に繋がってくることが考えられます。
このように一つ問題が起こった後に適切な対処をとらずにいると、神経レベルで筋のコントロールが乱れてしまい、新たな傷害を招く悪循環が生まれてしまいます。
大切なことは外傷後にしっかりと処置をすることです。そして外傷後に起こった神経や筋の問題をしっかりと見極めた上で、改善のアプローチをすることが必要です。
今回は柔軟性に関わる筋の解剖や、柔軟性低下を起こすメカニズムについてまとめさせていただきました。
次回は柔軟性低下を防ぐ対策についてお話ししたいと思います。
柔軟性の事だけでなく、お身体の悩みや困ったことなどがありましたら、お気軽にZ-fitnessにご相談下さい!!
最後までお読みいただきありがとうございました。