繰り返す野球肘
みなさんこんにちは理学療法士の桐川です。
今回は、“繰り返す野球肘”についてお話ししようと思います。
みなさんは野球肘についてどのようにお考えでしょうか?
「野球をやっていれば痛くなるのは当たり前だ。」
僕の学生時代はまだそのような風潮が蔓延していました。
ここ最近の医学界からの多くの報告により、成長に合わせた球数の設定など予防に対しての取り組みが重要視されてきました。
「そもそも“野球肘”ってそもそもなんだ?」という方の為に、少し説明します。
“野球肘”とは、ボールを投げる負荷によって生じる肘の痛みのことです。
ボールを投げる際は、肘の内側に対して引っ張られる力が強く加わります。
これにより肘の内側に痛みが生じることが多いです。
小学生では、肘の内側の痛みは約20〜30%の発生率と言われています。
今回のブログでは、肘の内側に痛みが生じる野球肘が繰り返しやすいという、ある報告を紹介します。
「小学生・中学生の頃に肘を痛めた場合、高校野球の3年間で再度肘の痛みが出る可能性は、何倍高まるか」という報告がありました。
答えは約3倍とのことです。
高校入学時に、選手一人一人に今までの“ケガ”の経験を聴取し把握することも重要となります。それに応じた負荷の設定や、ケア、トレーニングの設定が選手の長期離脱を防ぐ上で重要ということになります。
この報告は、ある硬式野球部の新1年生約150人を対象にメディカルチェックを行い、それを3年の引退まで追跡調査したものです。2年半もかけて出来上がった報告であり、後の私たち理学療法士の仕事、高校野球の現場を中心にとても役立つものであると感じます。
一方で、ただの野球好きの人間からすると、「新入部員150人って…えぐいな…。」とか思いつつ、どこの高校なのかと推測したりしています。
少し話が逸れましたのでここで戻ります。
高校生時の対応も重要ですが、この報告の考察では、小学生の頃から野球肘に対しての予防が重要であると述べられております。
当院では、毎年1月から2月ごろに、野球肘検診を実施しています。
小学校高学年を主な対象として、野球肘の予防と早期発見を目的に実施しています。
当院のある東京都立川市周辺では“野球肘検診”に馴染みがない方々が多い印象です。実は東京以外の地域では、盛んに行われておりますが、東京都は連携がうまく図れず遅れている状況です。
野球肘検診で最もメインの検査は、超音波検査機器による肘関節の検診(エコー検診)です。
そして、私たちリハビリテーションスタッフも選手の身体の動きをチェックし、選手一人一人に身体の状態をフィードバックしております。
予防にも力を入れてはおりますが、それでも肘が痛いと病院にくる選手たちは少なくありません。
もし痛みが出ても、肘の状態を悪化させないためにも早期発見、無理をしすぎないことが重要となります。
しばらくの安静や病院での治療が必要となった場合も、痛みが引くまで待つだけではなく、再発予防に向けた身体の使い方を覚える必要性があります。
実際、私が治療してきた野球肘の選手を振り返ってみても、どの選手も何かしらは肘に負担のかかる原因を持っている印象です。その原因をとことん直す必要性があると考えます。
今回この報告を自分で知り、みなさんにご案内するにあたり
改めて、再発予防に向けてしっかりとしたリハビリを提供しなければ!
と身の引き締まる思いです。
同時に今の自分の仕事の重要性を感じました。
1人でも、野球を好きな子供たちが、ケガで野球を辞めずに済むように日々頑張っていきたいと思います。
現在、当院の野球肘検診は個人を対象に行なっておりませんが、要望が多ければ個人を対象とした野球肘検診の開催も検討しております。
もし、野球肘検診にご興味のある方は、当院ホームページの“スポーツメディカルチェック”のページよりお問い合わせください。
引用)高校野球新入部員における上腕骨内側上顆骨形態・尺側側副靭帯所見・疼痛既往とその後の肘内側痛発声状況との関連−2年4カ月の追跡調査− 宇良田大悟 整スポ会誌 VOL.43 NO.1.2023