骨のミカタ 体重のミカタ ~とあるクリニックの整形外科医の骨の話 骨粗鬆症編(6)~
暑い季節になってきましたね。
7月23日に気象庁からむこう3か月(8月,9月,10月)の天候の見通しが発表されました。東日本太平洋側の平均気温は平年より高い見込みとなるのが70%とのことで、残り30%という数字に淡い期待を抱いている副院長の丸田です。
前回のブログから今回までの間に、薬剤師の方向けの雑誌が骨粗鬆症の薬の特集を組むとのことで、その担当者から取材を受ける機会がありました。
骨粗鬆症は自分で気付くことが難しいこと、そして早く気付いて重症化や骨折する前にしっかりと治療するかがとても大事ということを薬剤師のみなさまにも知って欲しいという思いでお話させて頂きました。(雑誌の記者の方はとても勉強されていて、私も刺激を頂きました。)
では、その骨粗鬆症のリスク因子にはどういったものがあるでしょう? 身体的リスク因子、遺伝的リスク因子、生活習慣のリスク因子等いろいろありますが、身体的リスク因子の中で“低体重”があります。骨のためにも適正な体重・体格でいることはとても重要になります。ではその“適正”はいったいどれぐらいでしょう。今回は体重の話です。
BMIと肥満度
“体重”の話の前にどうしても知っていて欲しい計算式とその値があります。太っている・やせているの指標で、体格指数(Body Mass Index)です。計算式は体重(kg)÷身長(m)2で、例えば体重が70kg 身長が180cmの人は約21.6(kg/m2)となります。自分で計算してもいいし、ネットで調べると数値を入力すれば自動で計算してくれるサイトやスマホアプリもあります。
体格指数 (Body Mass Index)。
計算式は体重 (kg) ÷ 身長 (m)2
このBMIによって日本肥満学会が下表のように肥満度を分類しています。
厚生労働省HPより
適正体重
ただ実際には年齢層ごとに適正体重があって、厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準2020年版」では以下の表のように目標とするBMIを18歳以上の成人の年齢を4区分に分けてそれぞれ示しています。これを見ると、BMI下の64歳以下と65歳以上で目標の範囲が違って、64歳以下の方はBMI20.0までやせててもいいのですが、65歳以上はBMI21.5以上の体格が必要でやせすぎはだめなようです。
厚生労働省HP日本人の食事摂取基準2020年版より
またWHOの研究グループが開発した骨折リスク評価法FRAXRでも体重やBMIは使われています。
fracture risk assessment tool。自分の骨折リスク・骨折危険度が評価が可能。いろいろなサイトにも載っていて質問に答えていくだけ。今後10年以内の骨粗鬆症による骨折の可能性と今後10年以内の股関節骨折の可能性がでてき、15%以上の方は要注意で検査が推奨される。以前のブログ 骨粗鬆症編(1)で紹介したのは イギリスのSheffield大学のサイト。
エネルギー(必要な量)
ではその“適正な体格”である、目標とするBMIがわかったところでそれを目指すためにすることは、食事から適切なエネルギーを摂ることです。日本人の食事摂取基準2020年版によると、必要な量は下の表の通りです。赤枠線内が骨粗鬆症により注意が必要な65歳以上の方々に関連するもので、それぞれの活動量(身体活動レベル。Ⅰ~Ⅲに分類していて低い方がⅠです。)ごとに必要なエネルギーが設定されています。1日の必要エネルギー摂取量は男性1800から2750kcal、女性1400から2100kcalとなっています。活動量が少ない人は、必要エネルギー量も少ないです。
厚生労働省HP日本人の食事摂取基準2020年版より
エネルギー(どれぐらい摂っているか)
どのぐらいのエネルギー量を食事で摂ればいいかがわかったので次は、日々自分がどれぐらいのエネルギーを摂っているかを調べましょう。
市販の本でも、食事のカロリーチェックできるものも出ていますし、インターネットで調べるのもいいでしょう。
自分で使ってみたのは“あすけん”というスマホアプリです。有料サービス(プレミアムサービス)は摂った食事の栄養バランスがより細かくわかりますが、無料で使える範囲でも食べたもの、飲んだものを選べば自動で摂取カロリーを計算してくれます。
さらに運動や歩数、階段を上がった段数などから消費カロリーも併せて計算してくれるのでとても便利でした。他にもいろいろなアプリがあると思いますのでご自身に合うものを探してみるのもいいと思います。
食べるもの
自分の食事摂取エネルギー量がわかったら、次にどういうものを食べればいいのかってなりますね。カロリーが適正でも、やはり栄養バランスが大切です。何を参考にすればいいかというと、これは農林水産省が「食事バランスガイド」で示しています。
農林水産省HPより
この図の左側の絵は“コマ”なんですね。くるくる回るやつです。コマがしっかりきれいに回るためには“バランス”が大事です。それではそのコマを詳しく見ていきましょう。
木・金属などの円形の胴に心棒を通し、それを中心として手やひもで回転させて遊ぶ玩具。大辞泉より
コマの胴体の上の方がより大事で一番上は主食になっていますね。主食は炭水化物の供給源です。そして主菜ももちろん大事ですが、主菜の上に副菜があり、副菜が重要というのが分かります。副菜はビタミンやミネラル、食物繊維の供給源になる野菜、いも類、きのこ、海藻などです。主菜は肉、魚、卵、大豆などで主にたんぱく質の供給源です。骨の材料として大事なのはカルシウムだけではありません。たんぱく質も重要な材料です。もちろん筋肉にとっても大切な栄養素で、筋肉は転倒予防の観点からも重要です。またフレイルという高齢者の身体機能全体の低下にかかわる概念があって、このフレイルにもたんぱく質は有効な栄養素です。
frailtyの日本語訳「加齢に伴う予備能力の低下のためにストレスに対する回復力が低下した状態」身体的フレイルの他に精神・心理的フレイル、社会的フレイル、オーラルフレイル等の概念もある。
コマの胴体の下の方へいきます。牛乳・乳製品は主にカルシウムの供給源です。カルシウムは骨の材料だけではなく、神経細胞や筋細胞(心臓を動かす心筋も)にとっても重要な、つまりヒトが生命活動を維持する上で重要な栄養素です。コマの胴体の一番下は果実でビタミンCやカリウムなどの供給源です。これら主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果実のグループごとに料理を「つ」という単位で数えています。それぞれ1日でいくつ分食べればいいかが書いてあります。主食なら食パン1枚が1つ分。主菜ならハンバーグステーキは3つ分となります。主食は1日で5~7つ分摂らないといけないのでもうちょっと食べないといけません。主菜は1日の目安が3~5つ分となっているので、ハンバーグステーキですでに十分な量になっています。そして忘れていけないのはコマの軸となる心棒。これがないと回りません。心棒はなにかというと、水とかお茶とか体にかかせないものとして書かれています。特にこれから暑くなるので、水分摂取に注意していきましょう。最後は紐です。コマの絵の左側に書かれていて菓子・嗜好飲料で、「楽しく適度に」と書かれています。こういった食生活の中の楽しみも大事ですよね。
お願いと願い
今回のブログは以上です。お忙しい中記事を読んで頂きありがとうございました。ぜひとも自分の体重、BMIを調べてみて下さい。そしてそれがご自身の健康のための生活習慣・食習慣の第一歩になることを願っております。
参考文献・図書
骨粗鬆症治療薬クリニカルクエスチョン100 診断と治療社
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会
もう悩まない!骨粗鬆症診療 日本医事新報社