膝前十字靭帯損傷のリハビリ
こんにちは、理学療法士の谷原です。
今回は「膝前十字靭帯(以下ACL)損傷」について解説していきます!
ACL損傷ってなに?
ACLは、大腿骨と脛骨を膝関節の中央で繋ぐ重要な靭帯のひとつです。
主に、すねの骨の前方方向への移動とねじれを防ぐ役割があります。
「膝の外科」久保俊一監訳,金芳堂,2007より引用
この靭帯が損傷すると、日常生活やスポーツ活動時の不安定感や痛み、腫れによる可動域の制限、ひざがカクっと抜ける感じがする(膝折れ)などの症状が出てくることがあります。
損傷の原因には、ストップ動作や急な方向転換・過度に膝が伸びる・他選手との接触などが挙げられ、スポーツ活動中に生じることが多いです。
ある程度時間が経過すると、腫れや痛みが引いてきて日常生活での支障が少なくなるため、自覚的には「大したことない」「治った」と思われることがありますが、自然治癒することはありません。
リハビリは必要?
ACL損傷後の回復において、リハビリは非常に重要です。
リハビリを行った患者さんはスポーツ復帰が早く、機能的な回復(可動域や筋力など)が得られることは論文でも報告されています。(Logerstedt et al,2012)
しかし、ただ動かして筋トレしていればいいわけではありません。怪我につながってしまった動きやシチュエーションを避けるために、身体のシステムを変える必要があります。可動域や筋力はもちろん、身体の使い方のイメージ、体性感覚といわれる自分の体の状態を正確に判断する機能なども治療の対象になります。それらを適切な時期に行うことでよりよい効果が得られます。
手術は必要?
スポーツ活動の有無、年齢、現在の症状などによって推奨されるかどうか決まります。
手術をしなくてもスポーツ活動がまったく出来ないわけではありません。しかし、近年では、将来的な膝関節の変形や靭帯の機能が落ちることによる不安定感が残ることを考慮して、一部の例外を除いた全例に再建が勧めれています。
当院医師を含めたリハビリスタッフの私たちも、多くのACL損傷後の患者さんをみてきましたが、手術については強く推奨しています。
損傷から手術までは平均1ヶ月以上空けることが多く、その間に「炎症症状の消失」「可動域の改善」「筋機能の向上」を目指します。手術前の状態を良くしていくことで、術後のリハビリはスムーズに進みます。
また、放置する時間が長くなると半月板や軟骨などの他組織の損傷が合併することも多いため、生活動作での注意が必要です。
手術後のスポーツ復帰にはどのくらいかかる?
一般的には9ヶ月前後です。
国や地域、病院(主治医)、患者さん自身の背景によって異なりますが、6ヶ月〜12ヶ月の幅があります。
すごい幅がありますよね。訳分かりません。笑
よく聞かれるので簡単に答えておこうかなと思います。
1.国によって異なる
国民性によるのでしょうか。
以前、オーストラリアで手術の勉強をしたことがある医師に聞いた話では、骨に穴を開ける場所も日本人ほど細かく考えないそうです。
だいたいこの辺に丈夫な靭帯をドーンと入れればok!みたいな考え方だと聞きました。本当でしょうか…笑
患者さんも日本人ほど細かいことを気にしない傾向にあるため、多少緩んでも大丈夫って感覚みたいです。笑
2.病院によって異なる
主治医の先生の考え方によっても変わります。
日本だと関東と関西で多少違ったりもしますね。
3.患者さんの背景によって異なる
トップアスリートは1日でも早い復帰がチームに求められることがあります。
また、早く復帰することが給料に繋がることが多々あります。
早く復帰することが将来的な膝関節に不利であっても、選手期間を充実して過ごすことが優先されることもあります。
学生でも、引退試合はなんとしてでも出たいですよね。
そういった状況を相談しながら復帰時期を検討することもあります。
論文によっても推奨される復帰時期は異なります。
個人的な見解をここで書くことは控えますが、興味があれば直接聞いて下さい。笑
それなりに根拠をもって考えていますが、それがすべてでないことも理解しています…
手術後のリハビリはどのように進める?
先に伝えたいのは、処置した内容によってリハビリの進め方は異なるということです。
なので、大まかにこんなペースで進めることが多いよ。ってくらいに読んでください。
手術〜術後1ヶ月
ひざを曲げる可動域120°程度、松葉杖なしでスタスタ歩けることを目指します。
術後1ヶ月〜3ヶ月
ジョギングに向けた準備期になります。
体性感覚と呼ばれる体の感覚を養ったり、チューブを使った筋トレをしたり、スクワットなどをして体の使い方をおさらいしたりします。後半はその場でのジョギングまで繋げていきます。
術後3ヶ月〜6ヶ月
カーブ走やサイドステップと言われる横方向の動きを作ったり、後半にはジャンプをしたりします。ダッシュも含めてですが、強い衝撃に耐えられる体を作っていきます
術後6ヶ月〜9ヶ月
競技場面で求められる、対人の動きを始めていきます。
最初は決められたパターンの動きから始めて、徐々に予測できないリアクションパターンに繋げていきます。
ここまでくるとだいぶ動けてきているため、リハビリ離脱する方…たまにいます…
でも、再発予防のために非常に重要な時期になるんです。
ぜひ最後まで携わらせてください…
まとめ
今回は「膝前十字靭帯損傷」についてまとめました。
ACLについてはとても奥が深く、まだまだ議論の余地がある分野です。
ここに書いたこと以外にも、靭帯の治癒過程や骨の穴、筋力向上に必要なトレーニング、体の感覚の取り戻し方、再発予防のために必要な膝以外の身体機能、復帰後に怪我をする前よりもパフォーマンスを上げるために何をしたらいいか…
色々なことを考えながらスタッフ一同、リハビリのお手伝いをできればと尽力しますので、ぜひ頼っていただけると幸いです!
もちろん、他の怪我についても!!
では、また病院やブログでお会いしましょう!!