言の葉

守重 佳昭

前回のブログでは私の過去の相撲歴をご紹介しました。相撲という競技は通常のスポーツとは違い、普段の練習から自分の限界を超えることを目指さないと強くなれません。これを耐え抜くために、いろいろな本や人の言葉より力をもらってきました。

今現在、相撲を教える立場になっても使うことがある言葉があります。今回は役に立った、力になった言葉を紹介していこうと思います。

①「3年先の稽古」

私の恩師である、明治大学付属中野中学校・高等学校相撲部監督であった故・武井美男先生が良く使った言葉で目先の勝ちを取るために稽古するのではなく先を見据えて本物の強さを身につけるための稽古を積みなさいという言葉です。

実際に私が入部した際には基礎的な練習がメインで技術的なことは基本的な体力がついてから教わりました。その基本的な思考は今現在の指導にも活かされています。また、人生においても使える言葉として心に留めています。

② 「努力したものが全て報われるとは限らん。しかし!成功した者は皆すべからく努力しておる!!」

私が尊敬するボクシングのトレーナーである鴨川源治氏の言葉で、初めて世界タイトルマッチに挑む弟子の鷹村守選手に対して贈った言葉です。対戦相手は才能の塊のような世界チャンピオン 。下馬評は不利と言われている中で送りだすときにかけた言葉です。

この言葉に続き「ここにおる者全てがキサマの努力を目撃し確認しておる。自信を持ってリングに上がれ、最後はキサマが積み上げたモノが拳に宿る!!」と伝えています。先ほども書いた通り私は相撲を教えていますが、この競技は努力を積み重ねてもほんの一瞬のことで勝ち負けが入れ替わったりします。まさに勝つためには積み重ねていくしかないのだと覚悟を決める言葉でした。

③ 「見すえている目の高さで答えは出るというコトじゃ!」

これも鴨川源治氏の言葉です。幕之内一歩選手が日本チャンピオンとの一戦に敗れた後、再起戦に向けて鴨川会長が伝えた言葉です 。自分の見すえる目標によって必然的にやることも変わるし、気持ちの面でも強い気持ちを持って練習や試合に臨むことが出来ます。

現在、教え子たちにもこの言葉を使うことがあります。 目標をどこに見すえるかで努力の量は変わって、結果も変わってくるというコトを教えるときに使っています。この意識が無ければ何のために日々苦しいことをやっているのか分からなくなり練習の効果も下がってしまいます。

④ 「拳は熱く、頭は冷ややか」

続いて も鴨川源治氏の言葉です。幕之内一歩選手が日本チャンピオンとして防衛戦を行ったときの鴨川会長の言葉で、対戦相手は尾張の竜こと沢村龍平選手でした。

反則を 使ったり、相手選手の身内に手を上げたりとしてきて、一歩選手はいらつき、頭に血がのぼってしまいます。そのとき に言った言葉で、勝つためには頭を常に冷静に働かせていなければいけない、拳は相手を倒すために熱くなければいけないという意味なのですが、この言葉はどの競技にも当てはまると思っています。実際、試合に臨む選手たちに向けて「腹の中は熱く、頭は冷ややかに」と伝えて送り出すこともありました。

緊張を打ち消すために熱くなることも大切ですが、熱くなりすぎては、今度は周りが見えなくなって勝利は手繰り寄せられません。土俵に上がる前にはいつもこの言葉をかみしめていました。

⑤ 「非日常の日常化」

この言葉は地上最強の生物と言われる範馬勇次郎氏の言葉で、実際に言った言葉は「非日常の集中力を日常化せずして真の格闘技者はあり得ない。」です。これは集中力の話ですが、競技自体にも言えると思っています。

相撲という競技が100kg以上のヒト同士が全力でぶつかり合う競技で、立ち合いは軽トラック同士の衝突と同じ程度の衝撃があると言われていますので非日常というに十分です。日々この世界で稽古しているとだんだんと慣れてい きます。この慣れによって、さらに上位の非日常に触れるようになり強くなっていくのです。

私の持論ですが、この理論からするとプロの相撲取りになるのならばなるべく早めが良いと思っています。普段、この言葉を学生に伝えるときにもきついことを続けていればそれに慣れるときが来て、さらに先のことが出来るようになるという話をよくしています。

⑥ 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

最後にはちゃんとした偉人の言葉で、良く学生たちにも話す言葉です。言わずと知れた中国の偉人、孫子の言葉です。すべての物ごとに当てはまることだとは思いますが、ここは相撲に当てはめて説明したいと思います。

まず「敵を知り」とは敵の情報を得ることから始まります。大会前であれば以前の大会の動画などでどのようなタイプの相撲を取るか、得意なことは何か、不得意なことは何か、負けるときにはどうやって負けるかを調べます。試合当日は、調子はどうか、何か気にしていることは無いかなど情報を仕入れます。

「己を知り」は自分が競技の中で出来る事、出来ない事、得意なこと、不得意なことを把握し、稽古のとき に自分のできることを増やしていくようにします。自分が出来ることが増えれば相手を攻める戦略も増えていくからです。

「敵を知り」で得た情報をもとに相手を倒すためのプランを作成し、実施できるように体を造り試合に臨みます。かといって相手もなかなか思い通りには動いてくれないので「百選危うからず」には到達できませんでしたが、勝つという事を説明するのにこの言葉はよく使っています。


こういった先人たちの言葉には体作りや試合に臨むときの心構えの真理があります。この言葉を繰り返し自分に唱えて、しっかりと地につけた力を養う事が競技力向上の最短距離です。

競技力が上がれば戦略を立てることが出来、思い通りのことができるようになって競技が楽しくなっていきます。楽しくなれば競技のことをより考えてトレーニングに励む。考えてトレーニングすれば競技力が上がっていく。この循環が競技を楽しむうえで非常に重要であり、上位の競技者はすべからくこの思考に至っていると思います。

※②~④は「週刊少年マガジン」に1989年から連載(連載継続中)している、ボクシングマンガの金字塔、森川ジョージ先生の「はじめの一歩」よりお借りしました。⑤は「週刊少年チャンピオン」に1991年~1999年まで連載された、格闘技マンガといえば一番に名前が上がる、板垣恵介先生の「グラップラー刃牙」よりお借りしました。