なぜ整形外科が禁煙を推奨するのか?

こんにちは、ぜんしん整形外科の理学療法士の原田です。

今回は『喫煙』をテーマにお話しようと思います。

当院では禁煙を推奨しています。

「なぜ整形外科なのに禁煙を推奨するの?」と思う方もいらっしゃるかと思いますので、今回は喫煙が整形外科領域に与える悪影響についてご説明できればと思います!

喫煙が整形外科領域に与える悪影響について、文献的には1996年に報告されています。そんなに前から報告されていたの?!って感じですね。

喫煙が与える主な悪影響は

① 創傷治癒の阻害(傷の治りが悪くなります)
② 骨代謝異常(骨粗鬆症になるリスクが高くなります)
③ 腰痛の発症リスク↑(腰痛の発症頻度が高くなります)
④ 術後の感染リスク↑(感染率が高くなります)
⑤ 癒合不全(骨折の治りが悪くなります)
⑥ 肩関節疾患のリスク↑(腱板断裂等の発症リスクが高くなります)

が挙げられていますので1つずつ解説します。

① 創傷治癒の阻害

傷を治すためには患部への血流量を増やし、修復細胞を行き届かせなければなりません。

しかし、喫煙により末梢の血管は収縮、変性し血流が減少します。血液凝固作用も亢進させてしまうため、傷の治りが悪くなると言われています。

さらに、患部に行き届いた修復細胞が働くためには酸素が必要となりますが、酸素を運搬する作用も阻害するため、これもまた傷の治りを悪くする原因となります。

② 骨代謝異常

骨は表面の固く丈夫な皮質骨、内部のスポンジ状の海綿骨から構成されています。

また、骨は一生同じものではなく、一定の周期で骨を壊す(骨吸収)のと作る(骨形成)のを繰り返すことで丈夫な骨を維持しています。このことを骨代謝と言います。

骨粗鬆症とはこの骨代謝のバランスが崩れることで骨がもろくなり骨折しやすい状態になることを言います。

骨粗鬆症は閉経後になりやすく、加齢や栄養不足、運動不足も原因となると言われていますが、喫煙によっても発症リスクは高まります。

それは喫煙が「骨を作る作用」と「骨を壊すのを抑制する作用」を阻害するためです。

また、一卵性の双子を対象とした研究では非喫煙者と喫煙者の間で男女ともに骨折のリスクを2〜6倍高めるとの報告もあります。

骨粗鬆症については丸田Drがブログで説明しておりますので、そちらも合わせてご参照ください。

③ 腰痛の発症リスク↑

喫煙量あるいは喫煙期間に応じて腰痛を発症するリスクは高くなると報告されています。しかし、そのメカニズムについて一定の見解は得られていないようで、喫煙による咳や先程も述べた喫煙による骨粗鬆症から生じる微小骨折やよって脊椎に物理的ストレスがかかることが原因ではないかと考えられているようです。

また、喫煙によって椎間板が変性しやすくなり椎間板ヘルニアの発症リスクも高まります。

椎間板ヘルニアについては当院のホームページでもご説明しておりますので、そちらも合わせてご参照ください。

④ 術後の感染リスク↑

科学的論拠は充分とは言えませんが、喫煙が術後感染の危険因子になるとの報告が散見されており、そのことから術前に完全に禁煙することを義務づけている整形外科医もいるようです。

⑤ 癒合不全

喫煙は骨の癒合不全および癒合遅延のリスクを倍増させます。その原因はタバコ煙成分のニコチンによる影響であると考えられているようです。

骨折後や骨に対する手術後は患部(骨)への血行が戻ることで治癒が進みます。ニコチンはこの血行が戻るのを阻害するため、癒合不全や癒合遅延を引き起こすと報告されています。

⑥ 肩関節疾患のリスク↑

喫煙は腱板断裂の発症リスクを高めることが報告されています。これは喫煙が腱板の変性を加速させるためであり、若年層での断裂につながるとも言われています。腱板断裂は外科的手術が必要となる場合が多い疾患です。

腱板断裂とその手術については当院のホームページでもご説明しておりますので、そちらも合わせてご参照ください。

以上が、喫煙が整形外科領域に与える悪影響となります。

「自分はどうなっても構わないからタバコだけは辞められない」とおっしゃる方も中にはいらっしゃるかもしれません。しかし問題は、タバコの健康被害が周囲にも及ぶということです。

タバコの煙で自分が吸い込むものを“主流煙”、喫煙者が吐き出したものを“呼出煙”、タバコから立ち上がるものを“副流煙”といいます。喫煙者の周囲にいる人は“呼出煙”と“副流煙”の混ざった煙を吸うことになります。これを「受動喫煙」と呼んでいます。副流煙に含まれる有害物質は主流煙の数倍というデータもあり、受動喫煙の健康被害は深刻と言えます。当然、受動喫煙によりがんや循環器疾患のリスクが上がることも証明されています。

野球少年の選手生命を脅かす肘の病気である“離断性骨軟骨炎”の発症に受動喫煙が影響を与えているということは、野球少年を診療する整形外科医の間では有名な事実です。親や監督として自分の喫煙が子供の野球をする時間を奪い兼ねないのです。

この記事を読んで、禁煙を考えるきっかけや身近な喫煙者への禁煙を勧めるきっかけとなれば幸いです。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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日本禁煙推進医師歯科医師連盟, 整形外科疾患に対する喫煙の影響, 発行年不明, <http://www.nosmoke-med.org/ronbun_seikeigeka_shikkan_eikyou>, 2020/5/13閲覧